残置物の処理等に関するモデル契約条項とは|受任者の選び方・3か月ルール・実務Q&Aまで

監修・編集責任

山本貴大

株式会社ローカルマーケティングパートナーズ 代表

本記事は、環境省・国民生活センター・国土交通省などの公的な一次情報にもとづいて内容を確認しています。

単身の高齢者に部屋を貸すとき、大家や管理会社が不安に感じるのが「入居者が亡くなった後、契約の解除や室内に残された家財(残置物)の処理が進められないのではないか」という点です。この不安に応えるために国が用意したのが、残置物の処理等に関するモデル契約条項です。

制度の概要だけなら公式サイトでも読めます。この記事では、それに加えて実務で判断に迷う部分を扱います。受任者に誰を選ぶか、どの組み合わせだと無効になりうるか、いつから処分してよいか、現金が出てきたらどうするか。国土交通省が公表しているQ&Aの内容を含めて整理します。

残置物そのものの意味は残置物とは、すでに退去や死亡が起きた後の実務は残置物処分の同意書で扱っています。

残置物の処理等に関するモデル契約条項とは

国土交通省と法務省が策定したひな形です。単身の高齢入居者が亡くなった後に、賃貸借契約の解除と居室内の残置物の処理を、あらかじめ定めた受任者が代わりに進められるようにするためのものです。

背景にあるのは、相続人の有無や所在が分からない単身入居者が亡くなると、契約解除も残置物処理も進められず部屋が長期間動かせないという問題です。これを恐れて大家が高齢者の入居申込みを断る事態を避ける狙いがあります。活用のためのガイドブックは令和7年(2025年)10月時点で第2版が公表されています。

使用が法令で義務づけられているものではなく、利用は任意です。

3つのまとまりで構成される

モデル契約条項は3つのまとまりから成ります。当事者が異なるので、そこから押さえます。

まとまり当事者内容
解除関係事務委任契約入居者と受任者賃貸借契約の存続中に賃借人が死亡した場合に、合意解除の代理権と、賃貸人からの解除の意思表示を受ける代理権を受任者に与える
残置物関係事務委託契約入居者と受任者契約終了後に、受任者が居室内の残置物を廃棄する、または指定された送付先へ送付する
賃貸借契約の関連条項大家と入居者上記2つの契約に関連する条項を、賃貸借契約のなかに設ける

前の2つは委託される事務の内容が違うため別のまとまりとして示されていますが、同一の受任者と結ぶ場合は1通の契約書にまとめて差し支えないとされています。

要点は、これらを生前に結んでおくことです。亡くなった後に慌てて対応するのではなく、入居の段階で備えておく仕組みです。

誤解されやすいのは、2つの委任契約の当事者が入居者と受任者であり、大家はそこに入らないことです。大家が当事者になるのは3つ目、賃貸借契約に盛り込む条項の部分だけです。大家が主導して結ばせるものではなく、入居者本人が内容を十分に理解したうえで、自分の意思で結ぶ契約という建て付けになっています。

受任者に誰を選ぶか(ここが最重要)

実務で最も判断が要る部分です。そして、公式の推奨と現場の理解がずれやすい部分でもあります。

国土交通省のモデル契約条項本体には、次のように書かれています。

解除関係事務委任契約の受任者はまずは賃借人の推定相続人のいずれかとするのが望ましく,その上で,推定相続人の所在が明らかでない,又は推定相続人に受任する意思がないなど推定相続人を受任者とすることが困難な場合には,居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人のような第三者を受任者とするのが望ましいと考えられる。

つまり第一候補は推定相続人です。居住支援法人や管理業者といった第三者は、推定相続人を受任者にできない場合の受け皿として位置づけられています。「第三者に任せる制度」と理解していると、優先順位を取り違えます。

理由は代理権の性質にあります。賃借人が亡くなると賃借人としての地位は相続人に相続されるため、契約が解除されれば相続人がその地位を失います。代理権の行使が相続人の利害に直接影響するので、まず相続人自身に委ねるのが筋という考え方です。

なお、推定相続人以外を受任者にする場合でも、相続人調査で推定相続人の有無や所在を明らかにすることまでは求められていません(公式Q&A)。「調べ尽くさないと第三者を選べない」わけではない点は、実務上の負担として押さえておくとよい部分です。

受任者に誰を選ぶか 1. 推定相続人 配偶者・子・親など。まずここから 所在不明・受任の意思がないとき 2. 居住支援法人・管理業者 社会福祉法人なども想定されている 避けるべき 賃貸人本人/家賃債務保証業者 転貸人の立場にある管理業者
受任者の優先順位。第三者に任せる制度と誤解されやすいが、公式の第一候補は推定相続人。避けるべき組み合わせは無効と判断される可能性がある。

なぜ避けるべき組み合わせがあるのか

図の下段に挙げた3つは、いずれも受任者と賃借人(の相続人)の利害が対立する立場です。

賃貸人(大家)本人は、解除をめぐって相続人と利害が対立します。賃貸人を受任者とする解除関係事務委任契約は、民法90条や消費者契約法10条に違反して無効となる可能性が指摘されています。

家賃債務保証業者は、賃貸借契約の終了が遅れるほど保証対象の家賃債務が増えます。しかも親族などの個人保証と違い、賃借人との人的関係もありません。公序良俗に反して無効と判断される可能性があるとされています。

管理業者は立場によります。転貸人(賃貸人)の立場にある場合は避けるべきとされ、そうでない場合も、賃貸人の利益を優先せず賃借人(の相続人)の利益のために誠実に対応する必要があります。サブリースなど転貸人の立場にあるなら避けるという線引きは見落とされがちなので、自社の立ち位置を先に確認してください。

入居の条件にしてよいか

60歳以上の単身高齢者について、契約自由の原則により、この2つの契約の締結を賃貸借契約締結の条件とすること自体は差し支えないとされています。ただし条件は、賃借人が契約の内容を十分に理解したうえで同意していることです。

説明を省いて書式だけ渡すと、この前提が崩れます。後から「内容を理解していなかった」と主張される余地を残すことになるので、何を委任するのかを口頭でも説明し、その記録を残す運用にしてください。

誰が使えるか

原則は60歳以上の単身高齢者が賃貸住宅を借りる場合を想定した仕組みです。ただし公式Q&Aは、これを硬直的に運用していません。

  • 60歳未満の単身者でも、推定相続人が存在しない、所在が不明であるなど、亡くなったときに残置物を処理すべき人と連絡が取れる見込みがない場合(緊急連絡先が確保できないなど)には、入居支援のために活用することは否定されない
  • 一方で、残置物の処理に関する大家の不安が生じにくい場面で使うと、民法や消費者契約法に違反して無効となる場合がある

後者が重要です。この仕組みは「全入居者に一律で結ばせる書式」ではありません。残置物リスクが実際に高い場面に限って使うもので、範囲を広げるほど無効リスクが上がる構造になっています。新規契約のテンプレートに常時組み込む運用は、この点で危うさがあります。

すでに入居中の方に使う場合

入居中の方が単身高齢者で、個人の保証人もおらず推定相続人の存否も不明といった残置物リスクの高い場面であれば、入居者との合意のうえで利用すること自体は否定されていません。

ただし手続き上の注意があります。関連する条項を賃貸借契約の特約として盛り込む場合、すでに締結されている賃貸借契約の変更が必要です。更新のタイミングで追加する場合も、入居者との間で条項の追加について合意したうえで更新する必要があります。

「既存入居者にも配って署名をもらう」という進め方では足りません。契約変更の手続きとして扱ってください。

締結から処理までの流れ

入居時と死亡後で、やることが分かれます。

入居時(生前)

  1. 対象となる入居者かを判断する(残置物リスクが実際に高いか)
  2. 受任者の候補を検討する(まず推定相続人、困難なら第三者)
  3. 入居者へ内容を説明し、理解を得る
  4. 入居者と受任者の間で、解除関係事務委任契約と残置物関係事務委託契約を結ぶ
  5. 指定残置物リストを作成する(廃棄してほしくない物を特定する)
  6. 賃貸借契約に関連条項を盛り込む場合は、その手続きを行う

死亡後

  1. 入居者の死亡を確認する
  2. 委任者死亡時通知先が定められている場合、死亡を知ったら直ちに、死亡した旨と自分が事務を受託している旨を通知する
  3. 受任者が賃貸借契約の解除手続きを行う(合意解除の代理、または解除の意思表示の受領)
  4. 室内の動産を、指定残置物・非指定残置物・金銭に仕分ける
  5. 保管に適しない非指定残置物(食料品など)は死亡時に廃棄する
  6. 搬出しようとするときは、2週間前までに委任者死亡時通知先へ通知する
  7. 賃貸借契約が終了したら、指定残置物を指定された送付先へ送付する
  8. 死亡から3か月等の期間の経過と賃貸借契約の終了を待って、非指定残置物を廃棄する(換価できるものは換価に努める)
  9. 搬出にあたっては第三者の立会いのもと、残置物の状況を確認・記録する
  10. 金銭は相続人へ返還する(相続人が不明なら供託する)
  11. 原状回復と再募集へ移る

入居時の5番(指定残置物リスト)を飛ばすと、死亡後の4番で仕分けができません。書式だけ整えてリストを作らないケースが実際にあるので、ここは契約とセットで扱ってください。

見落とされやすい2つの義務

フローの2・6・9は、モデル契約条項が受任者に課している義務です。作業の段取りとは別に、契約上やらなければならないこととして押さえてください。

通知先への通知(第2の第5条)。委任者死亡時通知先を定めた場合、受任者は死亡を知ったら直ちに通知しなければなりません。さらに、動産を搬出しようとするときは2週間前までに通知が必要です(保管に適しない物の廃棄を除く)。この2週間があることで、通知先から相続人へ連絡がつき、受任者が処理する前に相続人が自分で引き取る、という展開も生まれます。なお通知先の指定自体は任意で、定めなかった場合はこの条項は不要とされています。定めるなら、相続人との紛争を防ぐ観点から推定相続人の一人が望ましいとされています。

搬出時の立会いと記録(第2の第6条第3項・第7条第3項)。搬出にあたっては、第三者の立会いのもとで残置物の状況を確認・記録しなければなりません。立会う第三者には賃貸人、管理会社、仲介業者などが含まれます。「確認・記録しなければならない」と書かれた義務であり、後から何がどれだけあったかを説明できる状態にしておくためのものです。写真や目録がここに当たります。

処分してよいのはいつからか(3か月ルール)

非指定残置物の廃棄または換価は、委任者の死亡から3か月等の一定期間が経過し、かつ賃貸借契約が終了した後に行うこととされています(第2の第6条第1項)。

この3か月は法令で定まった期間ではありません。契約書上も「【3か月】」と括弧付きで書かれており、実情に応じて当事者の合意で定めるものとされています。国土交通省の解説は、残置物の処理をめぐって後から紛争が生じるのを可能なかぎり防ぐために一定の期間を置いた、と説明しています。ただし、その趣旨に照らして3か月を下回る期間を定めることは避けるべきとされています。

賃貸借契約の終了も要件とされているのは、契約が終了していなければ相続人がその地位を承継する可能性が残っており、その場合に残置物(家電など)が必要になりうるためです。また契約が続いていれば賃料も発生するため、残置物が置かれたままでも大家の被る損害は小さい、という整理です。

なお3か月の起算点は死亡時なので、死亡から3か月が経過していれば、賃貸借契約の終了後ただちに廃棄等へ着手できます。

いつ、何ができるか 死亡した時点 通知先へ通知/食料品など 保管に適しない物を廃棄 賃貸借契約が終了 指定残置物を送付先へ送る 3か月を待つ必要はない 死亡から3か月+契約終了 非指定残置物を廃棄・換価 解除の権限は死亡を知った時から6か月で終了
できることは時点で変わる。3か月は非指定残置物の廃棄・換価だけの要件で、指定残置物の送付には及ばない。

3か月を待たなくてよい場合

一律に3か月待つと誤解されがちですが、待たなくてよい場面が3つあります。図に挙げたとおり、保管に適しない非指定残置物(食料品など)は死亡したときに廃棄し(第6条第2項)、指定残置物の送付は賃貸借契約が終了した時点でできます(第7条第1項)。遺言執行者から送付を求められた場合も、期間の経過前に送付することが委任の本旨に反しないと考えられています。

このうち2つ目は運用に直結します。指定残置物、つまり遺族に届けるべき物の送付まで3か月止めてしまうと、故人の形見や遺言で承継が決まっている物を、必要のない期間そのまま置くことになります。3か月が要件になるのは、送付先が行方不明などで送付できず、換価または廃棄に切り替える場合(第7条第1項ただし書・第2項)です。

遺言執行者については、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するため、3か月が経過する前でも、遺贈の履行のために目的物の占有を取得することは可能と考えられています。

何を捨ててよく、何を捨ててはいけないか

モデル契約条項は室内の動産を2つに分けています。この区別が実務の中心です。

区分定義受任者の扱い
非指定残置物死亡時に物件内または敷地内にあった動産のうち、金銭でなく、委任者の所有物で、指定残置物でないもの廃棄または換価の対象
指定残置物リストへの記載やシールの貼付などの方法で、廃棄してはならないものとして指定された動産廃棄せず、指定された送付先へ送付
金銭室内にあった現金など上記いずれとも別扱い(後述)

非指定残置物はすべて相続財産です。所有権は委任者の死亡によって相続人へ移転し、受任者は委任者の地位を承継した相続人から委託を受けた者として廃棄等を行う、という整理になっています。

指定残置物には第三者の所有物も含まれます。委任者が遺言で相続させることにした動産、遺贈や死因贈与した動産、あるいは委任者以外の人が所有する動産などが想定されています。

細かい点ですが、死亡前に注文して死亡後に届いた荷物も「死亡時に存した」ものとして扱ってよいと考えられています。配送のタイミングという偶然の事情で扱いが変わるのは合理的でない、という理由です。

指定の方法

指定残置物リストに記載する方法が基本ですが、それだけに限られません。シールなどの指標を貼付する方法、その他の方法で明らかにすることも認められています。

実務では、入居後に家財が増減してリストが実態と合わなくなることがあります。契約時に作って終わりにせず、更新のタイミングなどで見直す運用にしておくと機能しやすくなります。

リストの運用でつまずくところ

指定残置物リストは、作った後の運用でつまずきます。公式Q&Aが具体的な場面に触れているので、想定される場面ごとに整理します。

場面扱い
入居後に家財が増減してリストが実態と合わない委任者が適宜、指定を追加・更新していくことが想定されている。受任者から定期的にリストの状況確認や更新を促す方法も考えられる
個別に記載・貼付するのが煩雑特定の金庫や容器に入れた物はまとめて廃棄禁止とする指定方法も考えられる。容器側に「中の動産を廃棄してはならない」旨のシールを貼る運用
送付先が書かれていない指定が無効になるわけではない。ただし「送付することが不可能または困難な場合」に該当し、一定期間の経過後に換価等ができると考えられる。条項上は、物を特定したうえで送付先の氏名・名称と住所を明らかにすることが委任者に求められている
リストに書かれた物が見つからない物件内を十分に探しても見つからなければ、送付や換価を行うことは困難であり、対応の必要はないと考えられる
死因贈与した物をリストに載せ忘れて廃棄した死因贈与の対象であることを受任者が過失なく知らなかった場合、受贈者に対する不法行為責任は生じないと考えられる

最後の点は受任者の免責に関わりますが、依存すべきではありません。逆に言えば、リストに載せてあれば守られたはずの物が失われるということです。指定の追加・更新を促す仕組みを持っている受任者のほうが、こうした行き違いは起こりにくいと考えられます。

金庫や容器を使ったまとめ指定は、実務上とくに現実的です。入居者本人が一つひとつシールを貼り続けるのは負担が大きく、続きません。「この引き出しの中は全部残す」という単位で指定できることを、契約時に伝えておくとよいでしょう。

相続人の意向はどこまで確認するか

受任者は「委任者の意向が知れているときはその内容」に従って事務処理をすることになっていますが、亡くなった委任者と相続人の意向が食い違う場面があります。

公式Q&Aは、委任者たる地位を相続した相続人の意向が知れている場合には、その意向を考慮しながら委任者全体の利益のために委任事務を処理する必要がある、としています。故人の意向だけを機械的に貫くのではなく、相続人の意向も踏まえるという整理です。

では、相続人を探す義務はどこまであるのか。戸籍調査のような積極的な探索までは求められていません。ただし委任契約は相続人に承継されており、受任者は相続人に対して善管注意義務等を負うと考えられています。

そのため、家の中に残されている物から相続人の存在と住所が明らかである場合には、それをもとに連絡を取るなどの対応は必要とされています。年賀状、手紙、アドレス帳といった室内の手がかりを無視して進めるのは避けてください。実務では、この確認を行った記録を残しておくことが受任者自身を守ります。

愛玩動物や遺骨

処理方法が法令で定められている物があります。ペットや遺骨がその例です。公式Q&Aは、これらについて必要に応じて専門家等に相談のうえ法令に則した対応が必要としています。

現場では判断が難しい代表格です。一般の家財と同じ流れに乗せず、発見した時点で止めて確認してください。

現金が出てきたときの扱い

見落とされやすく、かつ間違えると重い部分です。

受任者は、換価によって得た金銭と物件内にあった金銭を、委任者の相続人に返還する義務を負います。相続人の存否や所在が明らかでなく、受任者がそれを過失なく知ることができない場合であっても、供託することによってこの義務を履行しなければならないとされています。

「相続人が分からないから、相当期間保管したうえで時効を理由に自分の財産にする」という扱いは認められていません。

一方で、費用の充当は認められています。非指定残置物や指定残置物を換価して得た金銭、物件内にあった金銭がある場合、それらの合計額から委任事務処理の費用等を控除できます(残置物関係事務委託契約のモデル契約条項第10条)。

つまり、費用に充てられる範囲は決まっていて、残った分は返還または供託が必要という構造です。

契約が途中で終わったとき

委任契約は民法の原則に従い、当事者がいつでも解除できると考えられています。受任者側から降りることもできるということです。

加えて、解除関係事務委任契約には終了事由が定められています(第1の第3条)。賃貸借契約が終了した場合と、受任者が委任者の死亡を知った時から6か月が経過した場合です。後者は、相続人が賃貸借契約上の地位を承継したいと希望したために受任者が解除の代理権を行使しないことにした、といった場面を想定しています。

管理会社の実務としては、この6か月が期限になります。死亡を知ってから6か月を過ぎると解除の代理権が使えなくなるため、その間に合意解除または解除の意思表示の受領を済ませる必要があります。3か月ルールと並んで意識しておく数字です。

このため、賃貸借契約のモデル契約条項では、賃貸借契約の存続中に解除関係事務委任契約または残置物関係事務委託契約が終了した場合、賃借人は速やかに同様の内容の契約を新たに締結するよう努める、という努力義務が定められています。

管理会社が変わるとどうなるか

管理業者が受任者になっている物件で、物件の管理を別の管理会社に変更する場面は実際に起こります。ここで誤解しやすいのが、受任者の地位が自動的に引き継がれるかどうかです。

公式Q&Aは明確です。物件管理をする管理業者が変更されても、変更後の管理業者に受任者としての地位が当然に承継されるわけではありません。

受任者を変更するには、次のいずれかの手続きが要ります。

  • 委任者(入居者本人)の承諾を得て、受任者としての地位を変更後の管理業者へ移転させる
  • 委任者と当初の管理業者との間で契約を合意解除したうえで、変更後の管理業者と新たに契約を締結する

いずれも入居者本人の関与が必要です。管理会社間の引き継ぎ書類だけでは足りません。

管理変更の引き継ぎリストに「残置物の処理等に関する契約の受任者」の項目が入っていないと、この手続きが漏れます。漏れたまま入居者が亡くなると、受任者が存在しない状態で残置物が残り、この仕組みを使った意味がなくなります。管理受託の開始時と終了時の両方で確認してください。

契約時に受任者を決めて終わりではなく、受任者が継続しているかを定期的に確認する運用が要ります。

換価に努めるとはどういうことか

非指定残置物のうち換価できるものについては、受任者は換価に努めることとされています。ただし現実には、家財の大半に買い手はつきません。

換価の意味は、金額を最大化することではなく、相続財産を無為に失わせないことにあります。売れる見込みのある物を、売れると分かっていながら廃棄してしまうと、相続人の財産を減らすことになるためです。逆に、値のつかない物を無理に売ろうとして処理が長引けば、その分だけ委任事務処理の費用が積み上がり、結果として相続人の取り分を圧迫します。

実務では、買取に対応できる業者に室内を一度見てもらい、値がつくものと廃棄するものを仕分けた記録を残しておくと、判断の根拠として残ります。当社でも遺品の買取とあわせて対応しています。

改正住宅セーフティネット法(2025年10月1日施行)との関係

2025年(令和7年)10月1日に施行された改正住宅セーフティネット法は、この仕組みを制度の面から後押しするものです。主な改正点は次のとおりです。

  • 居住支援法人の業務に残置物処理等業務が追加された(残置物処理等業務規程を定め、都道府県知事の認可を受ける必要がある)
  • 居住サポート住宅の認定制度が創設された
  • 終身建物賃貸借の認可手続きが簡素化された。住宅ごとの認可から、事業者として認可を受けたうえで対象住宅を届け出る方式に変わった
  • 住宅確保要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者を国が認定する「認定家賃債務保証業者制度」が創設された

3つ目について補足すると、終身建物賃貸借は2025年に新設された制度ではありません。2001年の高齢者の居住の安定確保に関する法律(平成13年法律第26号)第5章で創設済みの制度で、今回変わったのは認可の手続きです。

これにより、居住支援法人が残置物処理の担い手として制度に位置づけられました。推定相続人を受任者にできない場面で、第三者の受け皿が制度的に整ったことになります。

前述のとおりモデル契約条項での第一候補は推定相続人ですが、単身高齢者の入居では推定相続人が不在または所在不明であることも多く、実務上は居住支援法人の役割が重くなります。

居住支援法人に頼む場合の確認点

改正法で居住支援法人が残置物処理の担い手として位置づけられましたが、すべての居住支援法人がこの業務を行っているわけではありません。残置物処理等業務を行うには、残置物処理等業務規程の作成と認可が必要とされています。

依頼を検討する際は、次の点を確認してください。

  • 残置物処理等業務について都道府県知事の認可(業務規程の認可・業務の変更の認可)を受けているか
  • 対応できるエリアに物件が入っているか
  • 実際の撤去・清掃作業を自ら行うのか、外部に委託するのか
  • 受任者になった後、入居者との連絡や指定残置物リストの更新をどう運用するか

とくに最後の点が実務では効いてきます。受任者が入居者と接点を持たないまま年月が過ぎると、リストが実態から離れ、いざというときに仕分けの基準として使えなくなります。

管理会社・大家にとっての位置づけ

この仕組みを使うと、単身高齢者にも貸し出しやすい素地ができます。死亡後の残置物リスクを入居時に手当てしておけるため、空室を埋めやすくなり、いざというときの原状回復と再募集も進めやすくなると期待されています。

ただし万能ではありません。次の点を踏まえて運用してください。

  • 生前に結ぶ仕組みであり、すでに亡くなった後には使えない。その場合は相続人からの同意取得など別の手順になる(残置物処分の同意書
  • 残置物リスクが高い場面に限って使う。全入居者への一律適用は無効リスクを高める
  • 受任者の選び方を誤ると、契約自体が無効と判断されうる
  • 受任者が継続しているかを定期的に確認する必要がある

生前に備えるのがモデル契約条項、すでに退去・死亡が起きた後に相続人から同意を得て処分するのが同意書、という役割の違いがあります。実際の費用負担は残置物撤去の費用と「誰が払う」を参照してください。

導入前に確認したいこと

確認項目内容
対象者の選定残置物リスクが実際に高い入居者か。一律適用になっていないか
受任者の候補まず推定相続人を検討したか。第三者にする場合、その理由が説明できるか
自社の立場管理業者として受任者になる場合、転貸人の立場にないか
既存入居者特約として盛り込むなら、賃貸借契約の変更手続きを踏んでいるか
指定残置物リスト作成しているか。実態と合っているか見直す運用があるか
受任者の継続管理会社変更などで受任者が不在になっていないか
実作業の体制実際に処理が発生したときの撤去・清掃・原状回復の手配先があるか

契約書の内容そのものについては、雛形をそのまま使う場合でも、個別の事情によって必要な手当ては変わります。導入にあたっては弁護士や司法書士に確認することをおすすめします。

よくある誤解の整理

説明の場で実際に混同されやすい点をまとめます。

誤解実際
大家と入居者が結ぶ契約だ入居者と受任者が結ぶ。大家は当事者ではない
第三者(管理会社・支援法人)に任せる制度だ第一候補は推定相続人。第三者は推定相続人が困難な場合の受け皿
結んでおけばすぐ処分できる非指定残置物の廃棄・換価は死亡から3か月等の経過と賃貸借契約の終了が要件。ただし指定残置物の送付は契約終了後にでき、保管に適しない物は死亡時に廃棄する
室内の物は全部処分してよい指定残置物は送付、金銭は返還または供託。処分できるのは非指定残置物
管理会社を変えれば受任者も移る当然には承継されない。入居者の関与する手続きが要る
全入居者に結ばせておけば安心リスクが生じにくい場面での利用は無効となる場合がある
亡くなった後からでも使える生前に結ぶ仕組み。死亡後は相続人からの同意取得など別の手順

この7つを説明できる状態になっていれば、入居者にも社内にも筋の通った説明ができます。

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残置物の撤去・特殊清掃・原状回復についてご相談いただけます。実際に処理が発生したときの作業前の写真記録や目録の作成、貴重品が出た場合の取り扱いなど、作業面の進め方もあわせてご相談ください。

契約条項の内容や受任者の適否といった法律上の判断については、弁護士・司法書士へご相談ください。ご相談は info@ihin-seiri-pro.jp までご連絡ください。

出典(一次ソース)(6件)

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よくある質問

モデル契約条項は必ず使わなければなりませんか。
任意です。法令で義務づけられているものではありません。単身高齢者に貸し出す際の残置物リスクを入居の段階で下げる手段のひとつです。
受任者には誰がなるのが望ましいのですか。
国土交通省の資料は、まず賃借人の推定相続人のいずれかとするのが望ましいとしています。推定相続人の所在が明らかでない、または受任する意思がないなど困難な場合に、居住支援法人や居住支援を行う社会福祉法人のような第三者を受任者とすることが望ましいとされています。
大家自身が受任者になってもよいですか。
避けるべきとされています。賃貸借契約の解除をめぐって賃貸人と賃借人(の相続人)の利害が対立しうるため、賃貸人を受任者とする解除関係事務委任契約は民法90条や消費者契約法10条に違反して無効となる可能性があると指摘されています。
すでに入居中の方にも使えますか。
残置物リスクが高い場面で入居者との合意のうえ利用することは否定されていません。ただし関連条項を賃貸借契約の特約として盛り込む場合は、すでに締結されている賃貸借契約の変更が必要になります。
残置物はいつから処分できますか。
物によって異なります。非指定残置物の廃棄・換価は、委任者の死亡から3か月等の一定期間が経過し、かつ賃貸借契約が終了した後に行うこととされています。一方、指定残置物の送付は賃貸借契約が終了したときに行うこととされており、3か月の経過は要件になっていません。食料品など保管に適しないものは、死亡したときに廃棄することとされています。
3か月という期間は法律で決まっているのですか。
いいえ。モデル契約条項では3か月としていますが、契約書上は当事者が合意で定める形になっています。残置物の処理をめぐって後から紛争が生じるのを防ぐために期間を置いたもので、その趣旨から3か月を下回る期間を定めることは避けるべきとされています。
室内に現金があった場合はどう扱いますか。
廃棄や換価の対象とは別に扱います。受任者は換価で得た金銭と室内にあった金銭を相続人へ返還する義務を負い、相続人の存否や所在が分からない場合も供託によって履行する必要があるとされています。
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