エンディングノートとは、自分にもしものことがあったときのために、財産や希望、家族に伝えたいことを書き残しておくノートです。遺言書と違って書き方に決まりはなく、元気なうちから気軽に始められます。
この記事では、エンディングノートに何を書くか、項目の一覧と書き方のコツを、遺品整理の現場の視点でまとめます。
項目を平等に並べるのではなく、「これを書いておくと、残された家族と片付けの現場が本当に助かる」という順に整理します。デジタル遺品や暗証番号の安全な残し方、賃貸やひとり暮らしの方が書いておきたいことなど、他ではあまり触れられない点も扱います。
エンディングノートとは
エンディングノートは、終活の一環として、自分の情報や希望をまとめておくノートです。目的は、残された家族が困らないようにすることと、自分の意思を伝えることの2つです。
亡くなった後、家族は限られた時間のなかで、葬儀の手配や、口座・契約の整理、各種の手続きに追われます。どこに何があるのか、本人しか知らない情報が多いと、家族は手探りで進めるしかありません。エンディングノートに情報がまとまっていれば、その負担を大きく減らせます。
書くのは、喪主や手続きを担うことになりそうな家族を持つ本人が中心です。親に書いておいてほしいと、子の側から用意するケースもあります。どちらの場合も、家族と一緒に考えておくと、いざというときに役立ちます。
エンディングノートを書くメリット
エンディングノートを書いておくと、家族にとっても本人にとっても、いくつもの利点があります。
いちばんは、残された家族の負担が減ることです。財産や契約、連絡先がまとまっていれば、家族は手続きに迷わず、短い時間で必要な対応を進められます。
次に、自分の希望を確実に伝えられることです。医療や介護、葬儀やお墓について元気なうちに考えを書いておけば、家族が判断に迷う場面を減らせます。
本人にとっての利点もあります。資産や契約を書き出す作業は、自分のお金や持ち物を棚卸しする機会になります。忘れていた口座や、使っていないサービスに気づくことがあります。
そして、これまでの人生を振り返り、これからをどう過ごすかを考えるきっかけにもなります。エンディングノートは終わりの準備であると同時に、これからを整えるための道具でもあります。
エンディングノートと遺言書の違い
エンディングノートを書くうえで、最初に押さえておきたいのが遺言書との違いです。もっとも大きな違いは、法的な効力の有無です。
| 項目 | エンディングノート | 遺言書 | 死後事務委任契約 |
|---|---|---|---|
| 法的効力 | ない(想い・情報の共有) | ある(財産の分け方など) | ある(契約にもとづく効力。対象は依頼した手続きに限られる) |
| おもな内容 | 資産・希望・連絡先・メッセージなど自由 | 相続財産の分け方、相続人の指定など | 葬儀・納骨・各種の解約手続きなど |
| 形式・費用 | 決まりなし。市販・自治体配布・自作 | 方式が厳格(自筆証書・公正証書など) | 依頼先(専門家・法人など)との契約 |
エンディングノートは、法律上の制度ではありません。そのため、財産の分け方を書いても、そのとおりに実行される法的な保証はありません。
財産の分け方を指定したいときは、法律で定められた方式で書く遺言書が必要です。自筆で書いた遺言書は、法務局が保管する自筆証書遺言書保管制度に預けておくと、紛失や改ざんを防げます(保管の申請は一件につき3,900円)。
ただし法務局が確認するのは形式面だけです。法務省も「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」と案内しています。内容に迷いがあるときは、公正証書遺言や専門家への相談も検討してください。
葬儀や納骨、各種サービスの解約といった手続きの実行を誰かに頼んでおきたい場合は、死後事務委任契約という方法もあります。
財産の分け方は遺言書、手続きの実行は死後事務委任契約、想いや情報の共有はエンディングノート。役割で使い分けるのが基本です。
相続に向けた準備は生前整理でやっておく相続・法的な準備でくわしく解説しています。
家族と片付けの現場が本当に困る情報
エンディングノートには書ける項目がたくさんありますが、すべてを完璧に埋める必要はありません。遺品整理の現場から見ると、残された家族が本当に困るのは、次のような「本人しか知らない情報」です。優先して書いておくと、家族の手間と費用が変わります。
すぐ必要になるもの
家や金庫の鍵、通帳・印鑑・保険証券の在りか、緊急の連絡先。
- 「どこにあるか」を書く
解約・手続きが要るもの
契約中のサブスク、携帯、公共料金、保険、ネットの有料サービス。
- 放置すると請求が続く
残す物・手放してよい物
形見に残したい物と、処分してよい物の区別。
- 「勝手に処分された」を防ぐ
とくに大切なのが在りかです。通帳や権利証、貴重品がどこにあるかが分からないと、家族は家じゅうを探すことになります。
次に、解約が必要な契約です。本人が亡くなっても自動では止まりません。把握できていないと、使っていないサービスの料金が引き落とされ続けます。
そして、形見として残したい物と処分してよい物の区別です。ここが曖昧だと、遺品整理の際に「大切な物を勝手に処分された」というトラブルにつながります。
価値のある品や買取に出せそうな物があれば、その点もメモしておくと、遺族が処分の費用を抑える判断をしやすくなります。遺品整理にかかる費用の目安は遺品整理の費用相場で確認できます。
ノートがあると、遺族の作業はどう変わるか
同じ部屋を片付けるのでも、情報があるかないかで進み方が変わります。
差が最も大きいのは、探す時間です。現場の実感では、在りかが分かっていれば数分で済むことに、分からなければ半日かかることがあります。
エンディングノートに書く項目
優先度の高いものを押さえたうえで、エンディングノートに書く項目を整理します。次の6つが基本です。書けるところから、少しずつ埋めていきましょう。
自分の基本情報
氏名・生年月日・本籍、保険証や年金手帳の保管場所。
資産・お金
預貯金・保険・不動産・借入。口座は金融機関名まで書く。
デジタルの情報
スマホ/PC、ネット銀行・証券、サブスク、SNSの一覧。
医療・介護の希望
持病・かかりつけ医、延命治療や介護についての希望。
葬儀・お墓・連絡先
葬儀やお墓の希望、亡くなったときに知らせてほしい人。
家族へのメッセージ
感謝や伝えておきたいこと。ペットの世話の引き継ぎも。
資産の欄では、預貯金・保険・不動産・証券を、金融機関名や種類、連絡先まで書いておくと、家族がそのまま手続きに使えます。
とくに見落とされやすいのが、借入や連帯保証といったマイナスの財産です。
もし借金のほうが多い場合は、相続放棄という選択もあります。これには、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月という期限があります(民法915条1項)。死亡を知った日とは限らず、期間内に調べきれないときは家庭裁判所に伸長を申し立てる方法もあります(同項ただし書)。
財産の全体像を残しておくことが、家族の判断を助けます。起算点の数え方を含め、判断の分かれ目は相続放棄と遺品整理で扱っています。
医療・介護の希望は、本人が判断できなくなったときに家族が迷わないための情報です。持病やかかりつけ医、飲んでいる薬、延命治療をどうしてほしいか、介護が必要になったときの希望などを書いておきます。
葬儀やお墓の希望も、家族が決めかねやすい項目です。宗教や形式、呼ぶ範囲、予算の目安、入りたいお墓。逆に「こうはしてほしくない」という点まで書いておくと、家族が費用や内容を決めやすくなります。
葬儀の希望を前もって相談しておく方法は葬儀の事前相談でまとめています。
連絡先については、亡くなったときに知らせてほしい人の一覧をつくっておくと、家族が訃報の連絡に困りません。名前と連絡先に加えて、その人との関係を書いておくと、家族が誰に何を伝えるべきか判断しやすくなります。
これらの実務的な情報に加えて、自分のこれまでの歩みや、これからやりたいこと、家族や大切な人へのメッセージを書き添える人もいます。
義務ではありませんが、こうした言葉は、残された家族にとって何よりの支えになることがあります。手続きのための情報と、想いを伝える言葉の両方を残せるのが、エンディングノートの良さです。
医療・介護の希望は、一人で決めなくてよい
書く項目のなかで、多くの人が手を止めるのが医療と介護です。延命治療をどうするか、どこで最期を迎えたいか。自分ひとりで結論を出すのは難しく、書けないまま先送りになりがちです。
ここで知っておきたいのが、厚生労働省が普及を進めている人生会議という考え方です。
厚生労働省は人生会議を「もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組」と説明しています。アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とも呼ばれます。
大事なのは「繰り返し話し合う」という部分です。一度決めて書き切るものではありません。 体調や気持ちの変化に応じて更新していくものだ、という前提に立っています。
エンディングノートには何を書けるか
この考え方に沿うと、書くべきことは「最終的な結論」ではありません。
- いま考えていること(延命治療、痛みの緩和、どこで過ごしたいか)
- なぜそう考えるのか(判断の理由。これがあると、家族が状況の変化に合わせて考えられる)
- 自分で判断できなくなったとき、誰に決めてほしいか
- かかりつけ医、持病、飲んでいる薬、アレルギー
- 話し合った相手と、その日付
結論だけを書くと、書いてある状況と実際の状況が違ったときに家族が動けません。理由まで書いてあれば、家族と医療者が「本人ならこう考えるだろう」と推測できます。
書いたら、話しておく
人生会議の核は話し合いです。ノートに書くだけでは、家族はその存在を知りません。
一度に全部を話す必要はありません。帰省したときに一つだけ伝える、通院に付き添ってもらったときに触れる。そうした積み重ねで足ります。日付を添えて更新していくと、いつの時点の考えかが家族に伝わります。
デジタル遺品と暗証番号の安全な残し方
近年とくに家族を困らせるのが、スマートフォンやパソコンの中にあるデジタル遺品です。本人にしかロックやパスワードが分からないと、家族は連絡先も写真も確認できず、ネット銀行や証券、有料サービスの解約にも苦労します。
ここで知っておきたいのは、遺品整理を業者に頼めば中身を取り出してもらえるとは限らないということです。
総務省行政評価局が2018年9月から2020年3月にかけて69の遺品整理サービス事業者から聴取した調査によると、デジタル遺品への対応について「専門家と連携してデータの取出しを行っている」とする事業者もある一方、「そのまま返却する」「依頼があればハードディスク等を破壊する」と回答する事業者が多かったと報告されています。
この調査は協力を得られた事業者への聴取で、業界全体の統計ではありません。それでも、機器を渡せば中身が出てくるとは限らない、という目安にはなります。
データが必要なら、依頼する前に対応できる事業者かを確認するか、本人が生きているうちに手がかりを残しておくのが確実です。
ここで注意したいのが、暗証番号やパスワードそのものをノートに書き込まないことです。エンディングノートを紛失したり、第三者に見られたりすると、そのまま悪用されるおそれがあります。安全なのは、番号自体は書かず、「たどれる手がかり」を残す方法です。
まずは、利用しているサービスを書き出すところから始めます。ネット銀行・証券、電子マネー、ポイント、月額のサブスク、SNS、写真の保存サービスなどです。
一覧にして「解約が必要か」「家族に引き継ぐか」を分けておくと、遺族が判断しやすくなります。パスワードをどこで管理しているかも書いておきます。管理アプリの名前や、別に保管したメモの在りかです。
スマートフォンやパソコンは、家族がロックを解除できないと中身にアクセスできません。解除の手がかりを信頼できる家族に伝えておくか、安全な場所に残しておきます。
二段階認証を設定している場合は、その点も書き添えておくと、家族が手続きの途中で行き詰まりにくくなります。
番号を直接書くのではなく、在りかと手がかりを残す。 そう覚えておくと、安全と利便性を両立できます。
ペットがいる場合
見落とされやすいのがペットです。飼い主が亡くなると、その日から世話をする人が必要になります。
当社が扱う現場でも、飼い主が亡くなった部屋にペットが残されていたことがあります。誰が引き取るかが決まっていないと、親族の間で話がつくまで日が過ぎてしまいます。
書いておきたいのは次の点です。
- 引き取ってほしい人(相談済みかどうかも書く)
- かかりつけの動物病院、持病、飲んでいる薬
- 食事の内容と回数、苦手な食べ物
- 性格や癖(人に慣れているか、他の動物と相性がよいか)
- ワクチンや登録の書類の在りか
引き取り先は、事前に相談しておくかどうかで結果が変わります。 ノートに名前だけ書かれていても、その人に受け入れる用意がなければ実行できません。
費用の面でも準備の方法があります。ペットの世話を条件に財産を渡す負担付遺贈や、信託を使う方法です。ただしこれらは法的な手続きになるため、弁護士や司法書士に相談してください。
賃貸・ひとり暮らしの人が書いておくこと
市販のエンディングノートの多くは、持ち家で家族と同居している人を想定しています。しかし、賃貸住宅やひとり暮らしの場合は、書いておきたいことが変わります。ここは見落とされがちな部分です。
賃貸住宅に住んでいる場合、亡くなった後は退去期限までに家財を運び出す必要があり、家族に時間の余裕がありません。
次のような情報を残しておくと、残された人の負担が大きく変わります。賃貸借契約書の保管場所、管理会社や大家さんの連絡先、連帯保証人が誰か、そして緊急時に連絡してほしい人です。
ひとり暮らしの場合は、かかりつけ医や、親しい友人・親族の連絡先も書いておくと、いざというときに周囲が動けます。加入している見守りサービスや、緊急時に開けてほしい引き出しの場所なども書いておくと安心です。
財布やカバンに、緊急連絡先を書いた小さなカードを入れておくと、外出先で倒れたときにも周囲が対応しやすくなります。
賃貸物件で入居者が亡くなったときの家財の扱いについては、残置物とはで、所有権や撤去の考え方を解説しています。
いつから・どう書くか
エンディングノートに「何歳から」という決まりはありません。退職や還暦、子どもの独立、入院などをきっかけに始める方が多く、判断力と体力があるうちに書き始めるのが基本です。
40〜50代で、親の介護や身近な人の相続をきっかけに書き始める人もいます。若いうちに書く場合は、資産や葬儀よりも、緊急連絡先やスマホ・SNSの情報など、いま必要になりやすい情報から始めると実用的です。
年齢よりも、気になったときが始めどきです。次の流れで進めると、無理なく続けられます。
-
ノートを用意する
市販のノート、自治体の配布物、普通のノートやアプリなど、手に入れやすいもので始めます。
-
書けるところから書く
すべてを埋めようとせず、基本情報や連絡先など、書きやすい項目から手をつけます。
鉛筆で書くと、あとで直しやすくなります。
-
保管場所を決めて家族に伝える
書いたら安全な場所に保管し、その在りかを信頼できる家族に伝えます。
-
定期的に見直す
契約や資産、気持ちは変わります。年に一度など、区切りで内容を更新します。
完璧に仕上げようとすると、かえって書けなくなります。空欄があっても構いません。書ける項目から少しずつ埋め、変化があれば書き直す、という気軽な姿勢で続けるのがこつです。内容が古いまま放置されると、かえって家族が混乱するため、定期的な見直しを習慣にしておきます。
書くうえで、気をつけたい点もあります。
ひとつは、エンディングノートだけでは相続の手続きはできないことです。財産の分け方を法的に指定したいなら、前述のとおり遺言書が必要になります。
もうひとつは、家族に押し付けないことです。自分の希望は書いても、最終的にどうするかは家族に委ねる。その姿勢でいると、受け取る側の負担になりません。
そして、引っ越しや口座の解約、契約の変更があったら、その都度書き直してください。家族が古い情報に振り回されずに済みます。
どこで手に入れるか
エンディングノートは、いくつかの方法で用意できます。自分に合ったもので構いません。
書店や文具店では、項目があらかじめ用意された市販のノートが手に入ります。お住まいの自治体が、終活の支援として無料で配布している場合もあります。
特別なノートを買わなくても、手持ちのノートやパソコン、スマートフォンのアプリで作ることもできます。
市販のノートは項目が整理されていて書きやすい一方、自作なら自分に必要な項目だけを自由にまとめられます。まずは手に入れやすいもので始めて、続けるうちに自分に合った形に変えていくとよいでしょう。
「こう書いてあると助かる」の具体例
項目名だけ分かっても、いざ書くと手が止まります。遺品整理の現場で「これは助かった」「これでは足りなかった」と感じた差を、具体例で示します。
財産・契約
| 書きがちな例 | 家族が動ける例 |
|---|---|
| 〇〇銀行に口座あり | 〇〇銀行 △△支店 普通預金。通帳は寝室の机の一番下の引き出し、印鑑は同じ引き出しの奥の小箱 |
| 生命保険に入っている | 〇〇生命 終身保険。証券番号は控えを同封。担当者は△△さん(連絡先は保険証券の裏) |
| サブスクをいくつか契約 | 動画配信2件・音楽1件・新聞1件。すべて〇〇カードから引き落とし。明細を見れば全部わかる |
| 家の権利証はある | 権利証(登記識別情報)は仏間の金庫。金庫の鍵は台所の食器棚の引き出し |
差は「家族がその場から次の行動に移れるか」です。金融機関名だけでは、支店を探し、通帳を探し、印鑑を探すところから始まります。在りかまで書いてあれば、その日のうちに手続きへ進めます。
引き落とし先のカードを1枚に集約している場合は、その1行を書くだけで契約の全体像が伝わります。カードの明細が一覧の役割を果たすからです。
形見と処分
ここが曖昧だと、遺品整理で最も揉めます。
| 書きがちな例 | 家族が動ける例 |
|---|---|
| 大事な物は残してほしい | 仏壇の引き出しの手紙類と、床の間の掛軸は残してほしい。それ以外の家財は処分してよい |
| 趣味の道具は誰かに | 釣り具は長男に。カメラは次女に。工具箱は処分してよい |
| 着物は価値があるはず | 桐箪笥の上段の着物は母の形見。他の衣類は処分可。価値の判断は業者に見てもらってよい |
「残してほしい物」を列挙するより、残す物を挙げて、残りは処分してよいと書くほうが家族は動けます。列挙されていない物の扱いに迷わなくなるためです。
価値の判断を家族に委ねると、捨てられない物が積み上がります。「見てもらってよい」と一言あるだけで、査定に出す判断がしやすくなります。
医療の希望
前述の人生会議の考え方に沿うと、結論より理由が効きます。
| 書きがちな例 | 家族が動ける例 |
|---|---|
| 延命治療は望まない | 回復の見込みがないなら延命治療は望まない。痛みは取ってほしい。理由は、母の最期を見て自分はこうしたいと思ったから。判断は長女に任せる |
| できれば自宅で | できれば自宅で過ごしたい。ただし家族の負担が大きいと感じたら施設でよい。この点は無理をしないでほしい |
理由と、判断を委ねる相手が書いてあると、家族は状況が変わったときにも考えられます。結論だけだと、書いてある前提と違う事態になったときに動けません。
日付を添える
どの項目にも、書いた日付を添えてください。
家族が最初に確かめるのは「いつの時点の情報か」です。3年前に書いた口座の一覧なら、解約済みのものが混じっている前提で見ます。先月書いた医療の希望なら、そのまま尊重できます。日付は、その情報が使えるかどうかの判断材料です。
日付がないと、家族はすべてを疑いながら確認することになります。
どのノートを選ぶか
エンディングノートには決まった形式がありません。何に書くかで続けやすさが変わります。
| 選択肢 | 向いている点 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 市販のノート | 項目が用意されており、埋めていけば形になる | 自分に不要な項目も多く、途中で止まりやすい |
| 自治体の配布物 | 無料。地域の窓口や制度の情報が載っている場合がある | 配布の有無や内容は自治体ごとに違う |
| 手持ちのノート | 必要な項目だけ自由に書ける | 何を書くか自分で決める必要がある |
| パソコン・アプリ | 修正と更新が簡単。項目の追加も自由 | 端末のロックが解除できないと家族が読めない |
パソコンやアプリで作る場合は、注意が要ります。中身が読めるかどうかが、端末のロック解除にかかってしまうからです。デジタル遺品と同じ問題が、ノート自体に起きます。
デジタルで作るなら、印刷したものを1部だけ紙で残しておくと確実です。更新したら差し替えます。
書くときに気をつけること
続けるうえで、いくつか落とし穴があります。
完璧を目指すと止まります。 全項目を埋めようとすると、書けない項目で手が止まったまま何か月も経ちます。書ける項目から埋めて、空欄は空欄のまま置いておいてかまいません。
法的な効力はありません。 財産の分け方を書いても、そのとおりに実行される保証はありません。確実に指定したいなら遺言書が必要です。前述の比較表を参照してください。
古い情報は害になります。 解約した口座、変わった連絡先、処分した物。書いた当時は正しくても、更新しなければ家族を振り回します。年に一度でも見直す日を決めておくと保ちやすくなります。
書きすぎるとリスクになります。 暗証番号やパスワードそのものを書き込むと、盗み見られたときの被害が大きくなります。在りかと手がかりに留めるのが基本です。
保管と家族への共有
エンディングノートは、書いて終わりではありません。いざというときに家族が見つけられなければ、意味がありません。
現場で見るのは、ノートがあっても機能しなかったケースです。よくあるのは次の3つです。
- 家族が存在を知らず、片付けの作業中に引き出しの奥から出てくる
- 書いた時期が古く、解約済みの口座や変わった連絡先が並んでいる
- 在りかは書いてあるが、肝心の手がかり(ロック解除やパスワードの管理場所)がない
書くことと、伝えて更新することはセットです。どれか一つが欠けると、書いた労力が生きません。
保管場所は、家族が見つけやすく、かつ他人には見られにくい場所を選びます。書いたことは、信頼できる家族に「エンディングノートを書いた」「どこにある」と伝えておきます。
口座やサービスの一覧など、他人に見られたくない情報を含みます。保管場所には配慮しつつ、在りかは共有しておく。このバランスが大切です。
注意したいのは、銀行の貸金庫に入れてしまうと、いざというときに家族がすぐ開けられない場合があることです。名義人が亡くなると、貸金庫の中身を取り出すのに相続の手続きが必要になることがあります。
すぐ取り出せる場所に置き、内容を知っている人を確保しておくと安心です。内容を更新したときも、そのつど家族に一言伝えておくと、古い情報で混乱するのを防げます。
生前整理・葬儀の準備とあわせて
エンディングノートを書くことは、生前整理や葬儀の準備と地続きです。情報を書き残すことと、住まいの家財を整理すること、葬儀の希望を決めておくことは、どれも「残される家族の負担を軽くする」準備だからです。
エンディングノートで情報をまとめながら、住まいの生前整理を進め、葬儀の事前相談で希望を家族と共有しておくと、いざというときの負担がぐっと軽くなります。
とくに賃貸住宅の場合は、遺品整理の費用の目安を知っておくと、家族が慌てずに準備できます。エンディングノートを入り口に、少しずつ全体を整えていくと安心です。
なお、遺言書の書き方や相続放棄の判断といった法律上の事柄は、弁護士・司法書士にご確認ください。当社は片付けの段取りと費用の面からご相談を承ります。
まとめ
- エンディングノートとは、財産や希望、家族に伝えたいことを書き残しておくノートです。書き方に決まりはありません。
- 法的効力はないため、財産の分け方は遺言書、手続きの実行は死後事務委任契約、と役割で使い分けます。
- 現場で家族が本当に困るのは「在りか」「解約が必要な契約」「残す物・処分してよい物の区別」です。ここを優先して書きます。
- 暗証番号やパスワードは直接書かず、在りかと手がかりを残すのが安全です。
- 賃貸・ひとり暮らしの人は、契約書の場所・管理会社・連帯保証人・緊急連絡先を書いておきます。
- すべてを埋めようとせず、書けるところから始め、保管場所を家族に伝え、定期的に見直します。
参考にした調査・制度(3件)
- 総務省 行政評価局「遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査結果報告書」(令和2年3月)(2026-08-07確認。実施時期は平成30年9月から令和2年3月、遺品整理サービス事業者69社から聴取。オプションサービスとしてのデジタル遺品対応について、専門家と連携してデータの取出しを行う事業者もあるが、そのまま返却する・依頼があればハードディスク等を破壊すると回答する事業者が多かった旨。報告書は、調査協力を得られた事業者に特定団体の加盟者が多く、業界全体の割合を示すものではないと注記している)
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度について」(2026-08-07確認。制度の概要とメリット。「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」との注記を含む)
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度」(2026-08-07確認。保管の申請手数料は一件につき3,900円)



